ビッグモーター不正請求問題を契機に、損害保険業界はかつてない規模で制度改革の荒波に晒されています。
この記事では、監督行政の方針転換から代理店・契約者が直面する具体的な変化まで、向こう2~3年の動きについて、考察も交えながら解説します。
私見に近い情報も含まれるので、その点はあらかじめご承知おきください。
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ビッグモーター事件が引き金になった監督行政の大転換
2023年に表面化したビッグモーター事件は、不正請求の温床となった出向スキームや監督官庁との距離感を問題視させ、業界慣行を一気に見直す流れを生み出しました。
金融庁は損保4社へ業務改善命令を出し、再発防止策の報告を義務付けるなど、従来よりはるかに踏み込んだ姿勢を示しています。
これにより、保険会社は「利益確保と顧客保護のバランス」を根本から見直さざるを得なくなりました。
事件の概要
中古車販売大手ビッグモーターが、車両の傷を意図的に拡大・捏造するなどして保険金を水増し請求。
他にも、自動車保険の契約数をノルマ化し、ノルマを下回った店舗の店長が、ノルマを上回った店舗の店長に罰金を支払うといった慣習があったことが、報道により明らかになりました。
ビッグモーターは車の販売や買取、修理・塗装など車に関する事業が本業ですが、保険募集資格を持つ従業員を配置し、保険代理店でもあります。
兼業代理店という業態になるのですが、店舗数や顧客数が多く大量の契約を見込めることから、損保各社は2011〜22年度に計37人を同社へ出向させており、内部から不正を助長していた実態が発覚しました。
これによって、保険業界のガバナンス欠如が露呈してしまったのです。
監督行政の姿勢転換
保険の監督官庁である金融庁は「顧客保護」と「ガバナンス強化」を最優先事項に掲げ、実効性の高い改善策を要求しました。
従来は“自主的改善”に委ねていた部分にまで詳細な報告を求めるようになり、損保各社は取締役会直下にモニタリング委員会を設置するなど、組織体制を急ピッチで再整備しています。
このビッグモーター事件をきっかけに監督官庁が動き、業界の根底に「売上至上主義」があったことが改めて問題視され、保険業界、特に損害保険の代理店界隈では大きな変化が起き始めました。
参考リンク:金融庁「大手損害保険会社に対する行政処分について」
変化ポイント:監督行政が示す主な改革メニュー
| 改革項目 | 概要 |
|---|---|
| 兼業代理店の見直し | 修理工場・不動産業者など本業を持つ代理店で発生しやすい利益相反を是正し、顧客保護を徹底。 |
| 出向慣行の規制 | 銀行やカーディーラーなど販売チャネルへの人員派遣を段階的に縮小し、公平な募集体制へ移行。 |
| 大規模乗合代理店への新規制 | 一定規模以上の乗合代理店を「特定大規模乗合損保代理店」に指定し、内部管理を強化。 |
金融庁が打ち出した施策は多岐にわたりますが、代理店と保険会社双方に共通して求められるキーワードが「利益相反の排除」と「内部管理の実効性」です。
以下の3分野での具体策を詳しく解説します。
兼業代理店の見直し
自動車販売や不動産業者など、本業の取引を通じて保険販売を行う“兼業代理店”は、顧客と保険会社の双方から手数料や修理費を得る構造が利益相反になりやすい点が問題視されています。
それを受けて、金融庁は
- 代理店登録時の事前審査と毎年の適格性確認
- 外部任せにせず、代理店が主体で教育・管理する体制整備が義務化
- 利益相反マニュアルの策定・開示義務
- 販売実績・苦情件数の月次報告
を義務としました。
2025年度から順次適用開始されており、これにより、専門知識を持たない新人が慣れないまま保険を販売するケースは大幅に減る見込みです。
出向慣行の見直し
「出向は顧客保護に反する(自社商品に誘導する可能性が否定できないため)」との判断から、銀行やカーディーラーに常駐する損保社員は段階的に引き揚げられています。
次の観点がポイントです。
- 営業目的の出向禁止
- 出向社員の人件費を受入先で全額負担
- 顧客接触業務の委託受託を制限
これを受けて、主要損保は2026年3月末までに大半を解消し、その後ゼロ化を目指す計画を公表。
現場では、新規取扱高よりもコンプライアンス研修への注力度合いが評価指標として重視され始めました。
大規模乗合代理店への新たな規制
改正保険業法では、年間保険料収入や営業拠点数が一定規模を超える大規模乗合代理店を対象に、営業所ごとに法令順守責任者の設置を義務付けるなど、次のようなガイドラインが追加されました。
- 営業所ごとに法令順守責任者を設置
- 月次内部監査と四半期ごとの監査報告書提出
- 苦情処理体制の整備
- E-learning完了率の報告義務
令和7年5月30日
違反時は営業停止命令・登録取消といった厳しいペナルティが科されるため、大手乗合代理店は内部監査部門を拡充し、各拠点のコンプラ責任を細かく切り分ける動きが加速しています。
変化ポイント:保険会社に迫る収益プレッシャーと手数料改革
保険業界に変化をもたらすものは、以上の監督官庁の動きだけではありません。
被害額や請求頻度が増え続ける自然災害、高機能車両の修理費高騰が、保険会社の財務基盤を揺さぶっています。
結果として、業界の変化と共に、保険料の値上げや代理店手数料制度の抜本改定も避けられない状況です。
火災保険の見直し
水災を対象にした「地域細分料率」が2024年改定で導入されました。
これは、水災補償にかかる保険料を、水災リスクに応じて設定しなおすというものです。
今までは建物の上部さ・耐久性の高さから保険料が安かった鉄骨造マンションであっても、水災リスクが高い地域は大幅値上げとなり、逆にリスクの低い地域は値下げとなりました。
さらなる災害多発を前提に、地震保険の“長期収支均衡方式”も検討されており、契約者は更新時に保険料が大幅に変動する可能性があります。
自動車保険の構造変化
自動ブレーキや複雑なセンサー類の交換費用により、1事故あたりの平均修理費は10年前の約1.3〜1.4倍に達しました。
各社は2024年と2025年の2段階で料率改定を予定しており、さらにテレマティクス割引等の装着状況に応じた加減算が拡充されます。
参考リンク:テレマティクスタウン|あいおいニッセイ同和損保
「安全機能で人身被害は減るが、車は高くつく」という逆説的なトレンドが今後も続きそうです。
手数料ポイント制度
従来はある程度一律だった代理店報酬が、各代理店の営業状況を元にポイントを付与し、そのポイントに応じた額を支払うという方式に変わります。
新制度では「ペーパーレス契約率」「ドライブレコーダー特約付帯率」「キャッシュレス収納率」などが評価指標に追加。
高スコアを獲得すると従来より手数料率が維持される一方、達成できない代理店は数%単位で手数料が減少します。
後述する高齢化問題もあり、IT化やAI導入など新しい技術への対応が難しい小規模代理店には、厳しい現実です。
変化ポイント:代理店サイドで進む淘汰と再編の現実
実は、代理店業界では廃業・吸収・統合が一気に加速しています。
背景には高齢化、後継者難、そして前章で触れた手数料制度の刷新が重くのしかかっています。
高齢化と後継者不足
個人事業主として30年以上活動してきた代理店の多くは60代後半に差し掛かり、デジタル化や新制度対応が負担になっています。
後継者を探すも事業規模が小さく魅力に乏しいため、売却や廃業を選ぶケースが増加。
保険会社は契約者保護の観点から、廃業を決めた代理店の顧客を受け皿代理店や直営代理店へスムーズに引き継ぐ「承継チーム」を設置しています。
直営化
これらの状況の結果、損害保険会社は「直営代理店」を増やす動きを進めています。
かつて、保険会社は多くの支店を持っていましたが、利益減少とAI化・IT化の進展により人員の余剰が生じています。
この余剰人員を直営代理店で活用することに加え、高齢化で廃業する代理店や政策に追随できない代理店の契約を吸収・統合することで、業界全体の存続を図ろうとしています。
ポイント条件の負担と廃業加速
代理店への手数料は保険会社が決めており、代理店の規模や契約数といった評価基準が設けられている傾向がありました。
しかし、一連の流れを受けて、損保大手4社は2026年度から導入する新しい評価基準=代理店手数料ポイントを公表しました。
小規模な保険代理店でも営業の質といったもので点数を稼ぐことが出来る反面、手数料を維持するために必要な「専用アプリ導入」「オンライン面談推進」などの取り組みは、ベテラン代理店が最も苦手とする分野(IT)です。
結果として、ポイントを稼げず手数料が目減り→投資余力が無くなる→さらなるポイント未達成、という悪循環に陥りやすく、廃業を決断する速度を早めています。
契約者が受ける影響と注意点
ここまで読んでくださったのならお分かりかと思いますが、業界の大再編は契約者(加入者)にも直接影響します。
次のようなメリット・デメリット双方を理解し、上手に立ち回ることが重要です。
担当者交代の増加
担当代理店が廃業した場合、保険会社は契約継続を前提に新しい代理店を自動的に割り当てます。
突然知らない担当者から連絡が来る可能性があるため、本人確認と引き継ぎ内容の確認は必須です。
保険代理店の廃業に伴う担当者変更で起きたちょっとしたトラブルの事例については、こちらの記事をご覧ください。

契約内容の是正で保険料が上下
これまで解説した大きな変化が起きる前に契約していた場合、故意かうっかりかは置いておきまして、本来は不要な補償が付いた契約になっている場合があります。
例えば、マンションの8階で水災の被害を受けにくいのに水災補償がついていた場合、一概にも不要と言い切ることは出来ませんが、所在地によっては高額な負担となってしまいます。

担当者が変わったことで、改めて保険の見直しを行い、こういった不要な補償が発覚するケースが多いです。
これによって保険料が安くなることもありますが、逆に必要な補償が足りていない、契約に不備があったといった問題が発覚した場合は、適切な契約に見直したことで保険料が上がってしまうこともあります。
見直しと保険料に関しては、新しい担当者とやり取りをして、自分の希望を伝え程よい着地点を探すしかありません。
そのため、代理店が廃業したことで担当者が変わった場合は、挨拶などの連絡をしていつでも相談できる状態にしておきましょう。
多様化とセカンドオピニオンの活用
担当者が変わったことで、受けられるサービスの質が変化したと感じる方もいるでしょう。
特に、先述の見直しで保険料が上がってしまった場合「新しい担当者のせいだ!」と思ってしまうかもしれません。
小規模な保険代理店は、運営方針は顧客ファーストであってもそれぞれ異なった特色があり、親切な対応を受けられる可能性が多い分、時には「この代理店とはそりが合わないな」と思うケースもあります。
一方、大規模な保険代理店や、保険会社直営代理店はマニュアル遵守が徹底されており、どの店舗でも均一化されたサービスを受けることが出来ます。
ネット型保険、ダイレクト型保険であればさらにシステマチックな対応になり、込み入ったやり取りを避けたい人には大人気です。
保険契約の選択肢が多様化したことで、保険の契約内容だけではなく保険代理店や契約方法についても見直す、“セカンドオピニオン”が可能になりました。
もし担当者に不満がある場合は、別の保険代理店に相談したり、保険代理店ごとに見積もりを依頼して見比べたり、ネット型保険を検討したりと、ご自分に合ったセカンドオピニオンをお試しください。
この記事の内容は、家禄堂『保険得々チャンネル』で動画解説しています!
メディアでは語れないもっと踏み込んだ内容についても触れているので、ぜひご覧ください。
まとめ
ビッグモーター事件で露わになった業界の課題は、兼業代理店の管理強化、出向慣行の是正、手数料制度の再構築といった形で一気に改革へと動き出しました。
今後2~3年は淘汰と再編が進み、代理店にはデジタル対応力とガバナンスが求められます。一方、契約者にとってはサービス品質の平準化と補償内容の最適化が期待できる時期でもあります。
変化を怖がらず、最新情報を取り入れつつ、自分に合った補償と担当者を選ぶことが、これからの“保険との付き合い方”と言えるでしょう。











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