今回は、「交差責任」というものに関する解説です。
これは事業用賠償責任保険で登場する保険用語ですが、中々複雑な意味を持っています。
保険得々チャンネルに寄せられた研修生からリクエストがあり、交差責任についてがっつり解説しています。
研修生とは:この場合、損害保険会社に所属しその間に保険の知識を身に着け、その後独立して代理店を始めるという立場の人
忙しい人はこちら
交差責任とは──複数の被保険者同士の賠償をどう扱うか
建設現場など、ひとつのプロジェクトに元請・下請・協力会社など複数の企業が関わる場合、同じ保険契約(証券)に複数の「被保険者」が含まれることがあります。
このような契約形態のもとで、たとえばある下請企業が、別の下請企業の所有する機材を誤って壊してしまった場合、普通に考えると「他人に対する損害賠償」にあたると思うかもしれません。
しかし、保険の約款上では、同一契約に記載された被保険者同士は、原則として“第三者”とはみなされず、そのような損害賠償は保険の補償対象外となるのが基本です。
このような制約を解消するために設けられるのが、「交差責任に関する特約」です。
この特約を付けることで、被保険者間の損害賠償であっても、保険上は“第三者に対する賠償”として扱い、補償の対象とすることが可能になります。
なお、特約の名称や内容は保険会社によって表現が異なる場合がありますので、契約時には注意が必要です。
交差責任が必要となる典型シーン
被保険者相互間で物損や人身事故が発生しやすいのは、次のようなケースです。
- 元請・下請が同一現場で同時作業
クレーン作業中に資材が落下し、別の下請業者の足場を破損。 - JV(ジョイントベンチャー)/コンソーシアム案件
博覧会や大型再開発で、複数社が共同受注する場合。
こうした場面では、交差責任がないと「被保険者同士=第三者ではない」ため、いかなる損害も保険の対象外になります。
事業用総合保険など賠償以外のことも補償してくれる保険であっても、被保険者相互間の事故を補償してくれるかどうかがポイントです。
交差責任の仕組み
交差責任に関する特約は、約款内で 「被保険者」 という語を個別に解釈する と宣言します。
結果として元請企業や下請け、協力会社等それぞれが、他社を“第三者”とみなして対人・対物賠償を請求できるようになります。
本保険において「被保険者」は個別に解釈され、被保険者相互間で生じた身体障害または財物損壊についても、本保険は各被保険者に対して個別に適用される。ただし、本保険の保険金額は被保険者間で共有されるものとする。
この場合、限度額については注意が必要です。
保険金額は「各社に別枠」ではなく 一つのバケツを共有 します。
重大事故で元請が限度額を使い切れば、同証券下の下請は枠が空になり、追加で起きた事故は無保険になる点に要注意です。
よく混同されるその他の特約
交差責任は「誰に対する損害か」を調整する条項/特約であり、「何が壊れたか」を補償範囲に戻す条項とは別物です。ここを混同すると、事故後に“想定外の不担保”が発覚します。
- 管理下財物(CCC)特約
被保険者が 保管・修理・作業のために預かった他人の財物 を壊した場合を担保。 - 支給財物・借用財物特約
発注者や施主から 現場に支給された材料・工具、レンタル機材などをカバー。 - 不良完成品損害担保特約
完成品や製造物そのものが欠陥で損壊した場合を補償。製造業・OEM で重要。 - リコール費用補償
市場に出た製品の欠陥判明後、回収・廃棄・通知広告にかかる費用 をまかなう特約。
※全て保険会社によって微妙に言い方が違います。
例えば「不良完成品損害担保特約」は、不良完成品・不良製造加工品事故補償特約、作業対象物損壊担保特約など、各保険会社で様々な言い方をしています。
内容はほぼ同じと考えていいですが、ややこしいので保険代理店を通して確認をした方がよさそうですね。
次は、事例を交えて具体的なことについて学んでいきましょう。
実際の事故例で交差責任を学ぶ
交差責任とは何か、交差責任が必要なケースについて、事例を交えて解説していきます。
事例1:建設現場のクレーン事故の事例
都市部の高層ビル新築工事で、元請の工事会社が下記の2社を下請として現場に入れていました。
- 下請A社:ベータ鉄骨(鉄骨建方工事、100t ラフタークレーンを使用)
- 下請B社:ガンマ設備(空調・衛生配管工事、自社資材・工具を現場搬入済み)
アルファ建設は 3 社連名で 1 通の「事業総合賠償責任保険(CGL)」に加入していましたが、証券には交差責任条項が付帯されていませんでした。
作業中、下請A社のクレーンオペレーターが鉄骨梁を吊り上げた際にバランスを崩し、鉄骨が落下して下請B社 の作業員2名を負傷させ、さらにB社所有の配管プレハブ材と溶接機を大破させる事故が発生しました。
≪保険金を請求した流れ≫
- 負傷した作業員2名と破損した資材・機械の損害について、被害者側のB社が「第三者損害」として保険金を請求。
- 加害行為を行ったA社も、自己の賠償責任をカバーする目的で同証券に基づき保険会社へ通知。
- 元請は工事全体の管理者として事故報告書を提出。
しかし、保険会社は支払いを拒否しました……。
保険会社が支払いを拒否した理由
主な理由とポイントは以下のとおりです。
- 同一証券内の被保険者相互の損害は「第三者損害」に該当しない(交差責任条項が無い場合、約款上は仲間内事故=不担保)。
- B社の作業員・資材・工具はいずれも「被保険者の身体・財物」扱いとなり、対人・対物賠償の補償対象外。
- 交差責任条項を付帯していれば、被保険者を個別に解釈でき、A社→B社への賠償を第三者扱いで支払えた。
- CCC(管理下財物)除外は今回問題にならず、条項付帯の有無だけで 2,500 万円※ の差が生じた。
※治療費・休業補償 1,500 万円+資材 800 万円+溶接機 200 万円
このように、被保険者を列挙するだけでは不十分で、交差責任条項を付けないと “仲間内事故は一切補償なし” になる点が最大の落とし穴となります。
事例2:内装業者がエアコンを落下させたケース
内装業者C社が、とある賃貸マンションのオーナーにエアコンの交換工事を依頼されました。
工事をするのは一つの戸室で、元々オーナーが用意したエアコンをつけていましたが、それが故障してしまいました。
そして、新しく付けるのは入居者が購入した新品のエアコンです。
作業当日、C社は現場の賃貸マンションでエアコン交換作業をしていたところ、うっかり新品エアコンを落としてしまいました。
新品のエアコンは壊れ、エアコンが当たった床も大きな傷がついています。
C社は自社で加入している事業用賠償責任保険で、エアコンの弁償と床の修繕を行おうと考えています。
しかし、断られてしまいました。
保険会社が支払いを拒否した理由
お客様から請け負った工事を引き受けて起こした事故だから、請負賠償のはず。
保険会社に詳しく聞くと、
- 入居者がオーナーに依頼し、オーナーがC社に下請けを出した形になるので、第三者への賠償とは言えない
- エアコンは支給された財物
- 床は工事とは直接関係ないものだが、工事をするにあたり傷をつけないよう管理する義務があった
という考えにより、交差責任特約、支給財物特約、管理下財物特約が無いから保険金を払わないと言われたのです。
事前にこういったことを理解できていれば、必要な特約を契約して備えることが出来たでしょう。
事業用賠償責任保険は、ありとあらゆる事業内容&事故に対応するため、特約を多く設けている分、その特約を契約していなければ補償してもらえません。
また、保険代理店も事業用保険に関する豊富な知識と経験が無ければ『この特約が必要ですね』と案内することが難しいのが現状です。
保険選びも重要ですが、保険代理店選びもかなり大切だということですね。
事例3:チョコレートビスケットの大量リコール
洋菓子メーカーのD社が、新商品としてチョコレートビスケットを製造。
しかしD社は元々ビスケットやクッキーのメーカーであり、チョコレートはチョコレート専門の製菓会社E社から、コーティング用のチョコレートを購入して使っていました。
いざチョコレートビスケットを販売すると、購入者から『食べたら体調が悪くなった』と連絡が来ました。
調査すると、E社から購入したチョコレートに異物が混入しており、それが原因で食中毒が起きたとわかりました。
購入者への賠償は、D社が加入している事業用賠償責任保険で賄うことが出来ましたが、同じタイミングで製造した他のチョコレートビスケットを自主回収=リコール対応したため、賠償とは別に多額の費用が発生しました。
D社はその費用をE社に賠償してもらおうと考えました。
E社もミスを認め、自社の保険を使って賠償を行うと決めました。
しかし、E社が加入している保険会社は、保険金の支払いを拒否しました。
保険会社が支払いを拒否した理由
主に次の内容が争点になります。
- 消費者への対人賠償 → D社のPL保険(生産物賠償責任保険)で対応。
- 回収したビスケット(完成品)廃棄費用 → 不良完成品損害担保特約・リコール費用特約がないと不担保
- D社からE社へ損失請求 → E社の保険に同特約が付いておらず請求棄却、E社は保険金なしで賠償する必要がある。
これを見てわかる通り、実は交差責任は関係ないのですが、交差責任と混合されやすい不良完成品損害担保特約が絡んできます。
ようは「完成品損壊を除外から復活させる特約」を付けていたかどうかです。
今回は食品でしたが、電子機器や日用品など、ありとあらゆる製品はいろんな会社が製造した部品を掛け合わせていることがほとんどです。
特に電子機器の場合、数えきれないほど多くの部品が使われており、かかわっている会社の数も比例して多くなります。
保険会社が間に入る、示談などの交渉を代行するといったことはしていませんので、保険の知識が豊富な弁護士に依頼する、事前に万全な保険にするといった対策が必要です。
最新動向と実務チェックリスト
近年は事業用賠償責任保険もあらゆる事故ケースの賠償をカバーする総合保険への一本化が進み、交差責任を 標準搭載 する商品が増えました。
一方で管理下財物・不良完成品損害担保特約などは追加保険料方式が主流で、付帯漏れリスクはむしろ高まっています。
事業における賠償リスクに備えたい場合は、次のポイントを気を付けましょう。
- 被保険者の網羅性 ─ 元請・下請・JV 構成員が証券に記名されているか
- 交差責任条項/特約の有無 ─ 自動付帯か、特約か、文言を確認
- 財物・完成品特約の付帯状況 ─ 現場実態に合わせて特約を選択
- 追加被保険者・求償放棄の必要性 ─ 契約書で要求されていないかチェック
- 限度額と自己負担額 ─ 多数社で共有する前提で余裕ある設定に
この記事の内容は、家禄堂『保険得々チャンネル』で動画解説しています!
メディアでは語れないもっと踏み込んだ内容についても触れているので、ぜひご覧ください。
ここからは、動画に寄せられた皆さんのご質問、ご感想をご紹介します。
皆さんの反応
この動画には以下のような声が寄せられています。内容を分かりやすくするために一部要約しています。
まとめ
交差責任条項/特約は「被保険者同士でも第三者賠償として扱う」ためのスイッチです。
しかし “誰に対する賠償か” をクリアできても、“何が壊れたか” が除外対象なら保険金は下りません。
交差責任 × 財物・完成品特約 × リコール費用特約――この三位一体で初めて、複数社が関与する現場リスクを実質的にカバーできます。
契約前のヒアリングと条項/特約チェックを徹底し、いざというときに「保険が使えない」という最悪の事態を避けましょう。











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