AI技術の進化は、損害保険だけでなく自動車保険の分野にも確実に広がっています。
契約や事故対応のスピードが向上する一方で、契約者自身が入力した情報がそのまま判断材料になる場面も増えました。
便利さの裏で、ほんの小さな入力ミスが大きなトラブルにつながる可能性もあります。
これから自動車保険に加入・更新する人に向けて、AI時代ならではの注意点を整理します。
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自動車保険でも進むAI化と業界の変化
損害保険業界では、数年前に発覚したビッグモーター事件をきっかけに、業界全体の適正化が強く求められるようになりました。
「不正を行うのは人である」という反省から、人為的な判断を減らすための仕組みとして、AIの導入が急速に進んでいます。
この流れは前回の記事でも触れたとおりで、業界全体の前提条件となりつつあります。

こうした変化は、自動車保険にも例外なく及んでいます。
もともと自動車保険は、過去の膨大な事故データをもとに保険料や過失割合を算出するなど、システマチックな対応が根付いてきた分野です。
そのためAIとの親和性が高く、契約者にとっても事故対応、保険金請求などの手続きが早くなるというメリットがあります。
一方で、人の関与が減ることで、これまで当たり前だった「その場での確認」や「柔軟な修正」が難しくなっているのも事実です。
自動車保険のAI化では初期エントリーが重要
AI化が進む中で、特に重要性が増しているのが「初期エントリー」です。
初期エントリーとは契約の前提となる情報を入力する工程のことで、ここで登録された内容が、保険料や補償内容、事故時の判断基準になります。
これまでは、代理店との対面や電話を通じて、担当者が内容を確認しながら情報を集めていました。
また、ダイレクト型(ネット型)の自動車保険であっても、最終的なチェックは人が行っており、誤字脱字以外ではなくても違和感や齟齬のある項目は確認や修正の指示が来ていました。
- マンションに住んでいるのに住所が番地までしか書かれていない
- 証明書に記載された正式な名前は「太郎」だが、変換ミスで「太朗」になっていた
- 実際は通勤に使っているのに「日常・レジャー使用」を選択した ※日常という単語から勘違いした
など
こういったミスは”あるある”です。
よくあるミスなので、人が確認を行う場合はより注意して、入念にチェックされるでしょう。
しかし今後は、契約者自身がAIの質問に沿って情報を入力し、その内容をもとに契約が成立する流れが主流になります。
確認書類の提出によって、氏名や車両情報などの形式的な照合は行われますが、入力内容の背景や実際の使用状況までをくみ取って修正を促すような判断は、AIには期待できません。
そのため、入力された情報は「正しい前提」として処理され、人の判断が介在する余地はこれまで以上に小さくなっています。
人はどうしても思い込みや勘違い、「ちゃんと書いたつもりだったのに」という入力ミスを起こします。
AI化によって便利になる一方で、入力した側の責任がこれまで以上に重くなる点は、あらかじめ理解しておく必要があります。
自動車保険で正確な入力が求められる「3つの柱」
初期エントリーで特に重要となるのが、次の3つの情報です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 車両に関する情報 | 車検証に記載された登録番号や型式など、加入する車そのものの情報 |
| 保険制度上の情報 | 補償内容や特約、使用目的など、制度理解が必要な項目 |
| 使用上の情報 | 契約者と被保険者の違い、誰がどのように車を使うか |
車両情報については、最新の有効な車検証を手元に用意すれば対応できますが、問題になりやすいのは後半の2つです。
特に「契約者(保険料を払う人)」と「被保険者(実際に補償を受ける人)」の違いや、車の使用目的は、内容を正しく理解しないまま選択してしまうと、後から大きなズレが生じます。
AIはすべてのことができるわけではない
そんなことを言ったって、AIは頭がいいんだから上手くやってくれるはずと思う人もいるかもしれません。
AIの導入によって保険手続きが効率化されているのは確かです。
しかし、すべての判断をAIだけで完結できるわけではありません。
AIにも種類があり、チャットGPTのようなネット上の情報を調べて質問に答えてくれるものもあれば、事前に組み込まれた特定の情報のみを扱うものもあります。
とくに、保険業界では各社ごとの違いや免責事項など、間違いが許されないその保険商品独自の情報が多いため、AIが扱える情報は限られていると想定できます。
そういった状況で、複数の条件が絡むケースやイレギュラーなことが起きた場合は、AIでは判断が難しく、人の対応が必要になる場面も出てきます。
もちろんそういったことはあらかじめ織り込み済みで、カスタマーセンターや専門の窓口へ問い合わせてくれといった案内が出るかと思いますが、「それなら最初からわかる人がやってくれ」と、時間を浪費させられた気分になる人も多いでしょう。
こうした観点で考えると、臨機応変に対応してくれる代理店の存在は、大きな安心材料となります。
入力ミスが招く最悪のシナリオ
初期エントリーで情報を誤ったまま契約が成立すると、事故が起きた際に深刻な問題につながります。
たとえば、ナンバープレートの変更を反映していなかった場合、保険会社から「その車両に対する契約は存在しない」と判断される可能性があります。
また、保険料を抑えたい気持ちから、使用目的を実態と異なる内容で入力してしまうと、告知義務違反とみなされ、保険金が支払われなかったり、過去にさかのぼって保険料を請求されたりすることもあります。
こうしたケースでは、「知らなかった」「間違えただけ」という理由は通用しません。
AIは(システムエラーが起きない限り)事前に決められたことを100%こなすので、人が介在するときは「こちらも確認や注意喚起が足りなかったですよね」と譲歩してもらえた場合でも、きっぱり「NO」を突き付けられます。
もし入力ミスをしてしまった場合
さんざんAIは怖い・冷たいという話をしてしまいましたが、実際は入力を間違えたら一発アウトという訳ではありません。
AIはプログラムの一部に組み込まれたものであり、そのプログラムを作るのは人間です。
予め不測の事態を想定して、AIがうまく対応できない場合は、お問い合わせ窓口へ連絡するように契約者へ促すパターンを用意していることが一般的です。
入力ミスが原因で問題が起きた場合も、AIの判断によって契約を解除されるといったことはなく、まずは問い合わせ→保険会社の人間が間に入り事態を確認する流れになるでしょう。
しかし、間違いが起きたタイミング(=初期エントリーなどの情報入力)で人が介在していないことから、状況を把握し、AIの判断と契約者の事情などを照らし合わせたうえで、不正がないかを確認するといった工程が入るため、かえって時間がかかります。
ただし、最終的には保険会社からも「そちらの不備です」と保険金の請求を断られるというケースも想定できます。
AI化が進むことで、入力という何でもない作業を気楽に行えなくなったことは確かですね。
代理店が介在できない「機械判定」の時代
AI化の影響は、事故後の対応にも及びます。
過失割合の算定なども、過去の事故データをもとにAIが算出する仕組みが広がっており、代理店が間に入って調整する余地は、以前よりも小さくなっています。
自動車保険はもともとデータベース化が進んでいた分野のため、AI導入によって対応スピードが上がるというメリットは確かにあります。
しかしその反面、不服申し立てや個別事情を考慮した柔軟な判断は、通りにくくなりつつあります。
だからこそ、契約の入り口である初期エントリーを正確に行うことが、将来の自分を守るための重要なポイントになります。
この記事の内容は、家禄堂『保険得々チャンネル』で動画解説しています!
メディアでは語れないもっと踏み込んだ内容についても触れているので、ぜひご覧ください。
ここからは、動画に寄せられた皆さんのご質問、ご感想をご紹介します。
皆さんの反応
この動画には以下のような声が寄せられています。内容を分かりやすくするために一部要約しています。
まとめ
これまでの自動車保険は、ベテランの担当者が付き添ってくれる旅行のようなものでした。
しかしAI化が進むこれからの時代は、無人のセルフチェックイン機を自分で操作する旅行に近づいています。
入力した名前や行き先が一文字でも違えば、搭乗できないのと同じです。
AIによる自動車保険は、スピードや効率の面では大きなメリットがあります。
一方で、契約内容を正しく理解し、正確に入力する責任は、これまで以上に契約者自身に委ねられます。
「どの保険に入るか」だけでなく、「どのように加入するか」。
その視点を持つことが、AI時代の自動車保険と上手に付き合うための第一歩と言えるでしょう。




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