顧客保護ではなく利益追求か…保険業界を揺るがしたあの大事件をわかりやすく解説!

保険全般

令和5年10月現在、世間一般ではBM&〇〇J事件への関心は薄れつつあるかもしれません。
しかし保険業界では、金融庁による立ち入り検査や今後の処分・罰則の行方など、依然として予断を許さない状況が続いています。
本件を通して明らかになったのは、保険会社の数字至上主義が、いかに顧客保護の原則を脅かしたかという点です。
この事件を単なる不正請求事案として片付けるのではなく、業界内に蔓延する「より大きな悪事」について掘り下げて考察します。

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掲載内容は『保険得々チャンネル』で紹介した保険の情報を基に記事として再構成したものです。

BM&〇〇J事件の内容

BM社は、自動車修理業者であると同時に保険代理店でもあります。
2023年前半には、意図的に車体を損傷させて保険金を請求するなどの不正行為が明るみに出ました。
さらに、街路樹への除草剤散布など、保険とは無関係な問題行動も次々と発覚し、社会的信用は大きく揺らぎました。

一方で、ある大手保険会社はBM社に出向社員を派遣しており、その目的はBM社を通じて販売される自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)の販売シェア率を競うためでした。
不正請求の対象となったのは任意保険の車両保険でしたが、この大手保険会社はBM社と深い関係を持ち、一時期は株主として第2位の出資割合を持ち、出向社員が一部門の責任者を務めていたという事例もあるほどです。
こうした関係性を踏まえると、大手保険会社が不正の存在を知らなかったとは考えにくいといえます。

「上得意さん」を巡る利益と不正

関与していた大手保険会社は、事件発覚後に謝罪会見を開き、「(BM社の保険金不正請求について)知っていた」と認めました。
それにもかかわらず、なぜ関係を続けたのでしょうか。背景には、圧倒的な“数字”の力がありました。

BM社が年間で取り扱っていた損害保険関連の保険料は、およそ200億円にのぼります。
保険代理店としては極めて優秀な実績であり、そのうち約60%(約120億円)はこの大手保険会社が占めていました。
損害保険業界では、保険料収入の約60%を保険金の支払いに充てても利益が出るという「再三分岐点」の理論が存在します。
これを前提とすれば、この大手保険会社はBM社関連の契約で、約72億円(120億円の60%)まで支払っても収益を確保できる計算になります。

つまり、仮に不正請求があったとしても、実際に支払われた保険金の総額は72億円には遠く及ばなかったと推測されます。
結果的に、BM社は不正を黙認してでも維持したい「上得意さん」であり、保険会社にとっては莫大な利益を生み出す存在でした。

保険会社は激しいシェア争いの中で、BM社から生まれる売上を他社に奪われたくないという思惑から、不正を知りながらも関係を断ち切ることができなかったのです。

誰も損をしていない?事件の特異性と隠れた「巨悪」

冷静にこの事案を見つめ直すと、少々奇妙な結論に至ります。
関与していた大手保険会社は、理論上の支払い余力(約72億円)を大きく下回る保険金しか払っていません。したがって、会社として明確な損失を被ったとは言い切れません。
また、修理を依頼した車のオーナーも、実態を知らなければ、車はピカピカに現状回復して戻ってきており、表面的には大きな実損害を被ったとは言い難い面があります。
さらに、保険料についても「ディーラー保険」などの仕組みにより、高い等級に長期間留まるなどの大きな不利益を被らなかった可能性もあります。

一方で、BM社は水増しした修理工賃を保険金として受け取り、利益を上げていました。
つまり、この事案において「大損害を被った人」はいない、という見方もできるのです。

しかし、本当に問題なのは、この事件の報道の影に隠れて、業界で常態化している契約者に不利益をもたらす慣習ではないでしょうか。

業界の「より大きな悪事」とされる事例

  • 1. 縮小認定の常態化:
    契約者の請求(例:100万円)に対し、保険会社が一方的な判断で「現状回復費は70万円で十分」などと主張し、支払額を減額すること。
  • 2. 無理筋の無責判定:
    支払い責任がない(無責)という判断を、強引な理屈(減り屈)を用いて下すこと。
  • 3. 責任転嫁の内規:
    保険会社が顧客や代理店からの追及を避けるため、鑑定会社に支払い判断を委ねること。
    時には社内の鑑定資格を持つ社員に、鑑定会社の名目で対応させている事例も指摘されています。
  • 4. 保険使用条件の説明不足:
    契約時に、保険金が支払われる事例(有責)と支払われない事例(無責)を契約者に十分に説明しないこと。
    約款(小さな字で書かれていることが多い)を盾に、契約者の反論を封じ込める行為は、しばしば見られます。

 

この記事の内容は、家禄堂『保険得々チャンネル』で動画解説しています!

メディアでは語れないもっと踏み込んだ内容についても触れているので、ぜひご覧ください。

ここからは、動画に寄せられた皆さんのご質問、ご感想をご紹介します。

皆さんの反応

コメント部分スクリーンショット
https://www.youtube.com/watch?v=BpNzuxC40Ao

この動画には以下のような声が寄せられています。内容を分かりやすくするために一部要約しています。

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今回の内容、深く共感します。私も、メーカーや代理店に同じことを思っておりました。

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現状は嘆かわしい事が多く、ご賛同いただけるコメントはとても励みになります。ありがとうございます。

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自動車保険料は、損害保険料率算出機構が集めた各社の保険料・支払データをもとに参考基準を作成し、各社が独自に設定していると認識しています。BMの過剰請求分もデータベースに反映されるため、任意保険加入者全体に影響があるのではないでしょうか。

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コメントでいただいたような追加情報・補足情報はとても助かります。ありがとうございます。

まとめ ― 許認可事業者としての責務

損害保険会社は、火災保険分野が赤字になるなど厳しい事業環境にありますが、企業である以上、利益を追求するのは当然です。
しかし、保険会社は国から事業を許可された許認可事業者です。
許認可事業者には、利益追求と同等の重さをもって、社会的に期待された役割があります。
それは、契約者保護です。
利益追求に走り、新規引受不可(例:築50年超の物件、築20年超の建物など)といった判断を下すことは、社会的に期待された役割を果たしていると言えるでしょうか。
保険業法第1条にも謳われている「契約者保護」を大前提とし、今回のBM&〇〇J事件を教訓として、業界全体が初心に立ち返り、信頼の回復に努めることが強く求められています。

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