自動車保険の申込みでは、車や運転者情報の入力ミスに注目されがちですが、実はそのあとに選ぶ補償内容もとても重要です。
特にAI化された申込み画面では、手続きをスムーズに進めるために必要最低限の説明にとどまることが多く、「この補償はこうしておいたほうが安心です」といった踏み込んだ提案までは受けにくい傾向があります。
そこで今回は、保険のプロの視点から、自動車保険で保険金額を「無制限」にしたほうがよい補償について、理由や事例を交えながらわかりやすく解説します。
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自動車保険で保険金額を無制限にした方がいい補償とは
自動車保険は、対人賠償・対物賠償・人身傷害・車両保険などを基本軸に、必要に応じて特約を組み合わせていく保険です。
この補償組み立ても重要なのですが、今回フォーカスを当てるのは、補償ごとに設定する保険金額。
保険金額とは、保険の対象になる損害に対して、最大いくらまで保険金を支払うのかという上限のことです。
いくらまで設定できるのかは保険や補償によって異なりますが、多くの保険は「無制限」という選択肢が設けられており、無制限を選ぶことが推奨されています。
この記事では、その中でも特に「無制限」を選んだほうがよい補償について、具体例も交えながら解説していきます。
対人賠償はなぜ「無制限」一択なのか
対人賠償は、車を運転していて他人にケガをさせてしまったり、死亡させてしまったりした場合に補償されるものです。
名前の通り、相手に与えてしまった損害に対する賠償をカバーする補償であり、同じ事故で自分が受けた損害を補償するものではありません。
対人賠償の保険金額は一定額から段階ごとに選択肢が設けられており、それに加えて「無制限」という選択肢も用意されているのが一般的です。
ここはぜひ無制限にしておきたい補償です。
その理由は、相手が死亡してしまった場合や、重い後遺障害が残ってしまった場合、必要になる賠償額が非常に大きくなる可能性があるからです。
命や人生への影響に、あらかじめ決まった値段をつけることはできません。
とはいえ、実際の賠償では、被害者の年齢や収入、扶養家族の有無、家計を支える立場だったかどうかなど、さまざまな事情をもとに金額が算定されます。
つまり、誰に対しても一律で同じ額になるわけではなく、事故の内容や被害者の事情によって大きく変わります。
また、強制保険と呼ばれる自賠責保険では、次のような上限が設定されています。
- ケガの場合:最高120万円
- 死亡の場合:最高3,000万円
- 後遺障害の場合:等級に応じて75万円~4,000万円
一見すると十分に見えるかもしれませんが、死亡事故や重度後遺障害事故では、自賠責の上限を大きく超える賠償になることが珍しくありません。
そのため、自賠責保険だけに頼るのではなく、任意保険の対人賠償を無制限にして備えておくことが大切です。
自賠責保険と任意保険の違いについて、こちらの記事で詳しく解説しています。

無保険車傷害特約
さらに重要なのが、無保険車への備えです。
損害保険料率算出機構の発表した「自動車保険の概況」によると、自動車保険や自動車共済に加入し対人賠償に備えている人の割合は合わせて88.4%という結果が出ています。
残りの11.6%の人は未加入・その他ということになります。
無保険車との事故では、相手に十分な賠償能力がないことも少なくありません。
こちらに過失がなくても、実際には十分な補償を受けられずに困ってしまいますね。
そんなときに心強いのが、対人賠償のグループで用意されている特約「無保険車傷害特約」です。
詳細は保険会社によって微妙に異なりますが、無保険車との事故でケガをして死亡または後遺障害を負い、十分な賠償を受けられない場合に、1名につき2億円などの上限額の範囲内で補償を受けられる仕組みです。
万が一、自分や家族が被害者になってしまったときの備えとしても重要な特約ですので、対人賠償とあわせて確認しておきたいところです。
対物賠償も無制限!しかし知られざる落とし穴も
対物賠償は、人ではなく物に損害を与えてしまった場合の補償です。
相手の車はもちろん、ガードレールや店舗、建物、電車、信号機などに損害を与えた場合にも関係してきます。
こちらも、基本的には無制限を選んでおくのがおすすめです。
ただし、物であれば価値がはっきりしていて、保険でも単純に全額補償されると思われがちですが、実はあまり知られていないルールがあります。
対物賠償は時価基準
火災保険なども含め、損害保険では物の価値を考えるときに、主に次の二つの考え方があります。
- 新価:それを新たに買い直したり、修理したりするために必要な金額
- 時価:新価から使用による劣化や年数の経過を差し引いた金額
対物賠償は、このうち時価ベースが上限になるのが基本です。
たとえば、相手の車を壊してしまい、修理費が200万円かかるとします。
ですが、その車が古く、時価評価が150万円だった場合、たとえ対物賠償を無制限にしていても、保険会社が支払うのは150万円までになることがあります。
物の価値を正確に測るのは難しいため、こうしたルールがあるのはやむを得ない面もあります。
ですが、事前に知らないままだと、「無制限なのに全額払ってくれないの?」と驚いてしまうでしょう。
保険によっては「対物超過修理費用特約」「対物全損時修理差額費用特約」といった、時価と修理費の差額をカバーする特約が用意されていることもあります。
とはいえ、50万円などの上限が定められていることが多く、高級車や特殊な車が相手の事故では十分とは言えません。
また、ここで思い違いをしてはいけないのは、新車に近い車であれば時価も高くなりやすいということです。
時価基準だから賠償額はそこまで大きくならない、と思うかもしれませんが、実際にはその車の価値や所有年数によって大きく変わります。
だからこそ、対物賠償も無制限にしておくことが大切です。
火災保険における新価と時価については、こちらの記事で詳しく解説しています。

実際にあった事例
以前、停車中に後ろから追突された被害者の方がいらっしゃいました。
その方はフェラーリの「エンツォ・フェラーリ」という、新車価格が3,700万円ほどする限定車に乗っておられました。
そこに、軽自動車が後ろから追突してきたのです。
(以下、事故の被害者をAさん、追突車の運転手をBさんとします)
フェラーリの修理費の見積もりは1,800万円でした。
しかし、Bさんが加入していた任意保険の対物賠償額は、わずか「500万円」だったのです。
1,300万円が足りません。
Aさんはご自身の車両保険を使って1,300万円の差額を賄い、修理することができました。
しかし、Aさんが加入している保険の保険会社は、本来払わなくてもよいはずの1,300万円を支払ったことになります。
ここで出てくるのが「求償権」です。
求償権とは、本来そのお金を負担するべき相手に対して、あとからその分を請求できる権利のことです。
今回のケースでは、本来不足していた1,300万円は、Bさんが負担するべき損害でした。
ですが、Aさんが早く車を修理するためにご自身の車両保険を使ったことで、Bさんが負担すべき差額分を、いったんAさん側の保険会社が”立て替えた”形になったと考えることができます。
そのため、保険会社は相手のBさんに対して「求償権」を行使しました。
つまり、「あなたが個人的にこの1,300万円を分割でもいいので返済してください」と請求したのです。
Bさんは拒否されましたが、最終的には弁護士同士の話し合いになり、不承不承ながらも求償権の行使を受け入れることになりました。
このように、対物賠償を軽く考えていると、相手がとんでもない高級車だった場合に人生が変わってしまう可能性があります。
対物賠償を無制限にしていれば、少なくとも保険金額の設定不足による大きなトラブルは避けやすくなります。
また、事故後の相手への償いや対応においても、「できる限りの備えをしていた」ということは大きな意味を持ちます。
ですので、対物賠償についても「無制限」を選択しておくことを強くおすすめします。
この記事の内容は、家禄堂『保険得々チャンネル』で動画解説しています!
メディアでは語れないもっと踏み込んだ内容についても触れているので、ぜひご覧ください。
ここからは、動画に寄せられた皆さんのご質問、ご感想をご紹介します。
皆さんの反応
この動画には以下のような声が寄せられています。内容を分かりやすくするために一部要約しています。
まとめ
自動車保険の保険金額は、ただ高く設定しておけばよいというものではありません。
ですが、対人賠償と対物賠償だけは別です。
人への賠償は、自賠責の上限では足りない重大事故が起こり得ますし、物への賠償も高級車や店舗、設備などが絡むと想像以上の金額になることがあります。
しかも対物賠償は、無制限であっても時価基準という前提があるため、仕組みを理解したうえで備えることが大切です。
AI化された申込み画面では、必要最低限の説明で手続きが進みやすいからこそ、契約者自身が「ここは削ってはいけない」というポイントを知っておく必要があります。
補償を迷ったときは、まず対人賠償と対物賠償を無制限にすること。
そのうえで、人身傷害や無保険車への備えも含め、自分が本当に困る場面を想像しながら補償内容を組み立てていくことが、自動車保険で後悔しないための基本です。






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