損害保険の保険料が値上がりするニュースを見かけることが増えてきました。
「またか…」思いはしても、仕組みや背景を知っている方は少ないかもしれません。
そこで今回は、保険料はなぜ上がるのか、どんな流れで値上げが行われるのか、そしてどんな方が影響を受けやすいのかをわかりやすく解説します。
忙しい人はこちら
火災保険などの損害保険が値上げする理由
火災保険に限らず、保険会社は請求された保険金を支払う為の資金を事前に保有しておく必要があります。
そのため、あらかじめ支払う可能性がある保険料が増えそうだとわかっていたら、その資金を増やすために保険料を値上げすることがあります。
これが、火災保険が値上げする理由の大前提です。
火災保険料の値上げについて、こちらの記事でも解説しています。ぜひ併せてご一読ください。
https://hokentokutoku.com/insurance_price_up/
近年の値上がりは、主に自然災害の発生が増加し、かつ建築資材が高騰していることが理由だとされています。
この二つの要因は、一時的なものとはいいがたく今後もどんどん増加・高騰していくかもしれません。
それぞれを詳しく解説します。
自然災害の増加
最近の火災保険料の値上げには、台風や豪雨、洪水などの自然災害の増加が大きく影響しています。
例えば、近年では大型台風や線状降水帯による集中豪雨で甚大な被害が出たケースがあり、2020年代前半だけでも各地で河川の氾濫や土砂災害が発生しています。
国土交通省が発表した2021年(令和3年)の水害被害額では、全国で約3,600億円もの被害が出たと書かれています。
こうした災害によって住宅や家財の損害額が増えるため、保険会社は将来の支払いリスクを見越して保険料を調整せざるを得ません。
建築資材の高騰
建物を修理・再建するための建築資材も高騰しています。
背景には、木材や鉄鋼などの原材料価格の上昇、輸送コストの増加、世界的な供給不足などがあります。
特に輸入材に依存する部分が多い木材や鉄鋼は、海外情勢や為替の変動の影響を受けやすく、材料費が大きく変動することがあります。
その結果、同じ損害でも以前より修理費用が高くなるため、保険会社は保険金支払いに備えて保険料を見直す必要が出てきます。
建設資材物価指数を見ると、材料費が数年前に比べてかなり上がっていることがわかります。
保険会社は、こうした資材コストの変動も含めて、支払う保険金の目安を計算して保険料を決めています。
どういう情報を基に、どのくらい値上げするかというと、実は保険会社だけの判断ではありません。
次のような流れで保険料が決まっていきます。
火災保険が値上げするメカニズムと流れ
保険会社が自由に保険料を設定すると、価格競争で十分な補償が成立しなかったり、トラブルが起きやすくなります。
そこで「損害保険料率算出機構」という組織が定める参考純率をもとに保険料を設定するのが暗黙のルールになっています。
金融庁参加の機関で、全国の損害保険会社から事故データや保険金の支払い実績を集め、将来の支払いに備えた適正な保険料の目安(参考純率)を算出しています。
参考純率とは、将来の損害発生の確率に基づいて算出された保険料の目安のことです。
具体的には「純保険料率」と呼ばれる、実際の損害に備える部分と、「付加保険料率」と呼ばれる、保険会社の運営費用や利益を含めた部分があります。
詳細は専門の記事がありますので、こちらをご参照ください。
保険料が値上げされる際は、この損害保険料率算出機構が参考純率を上げて、保険会社がそれを受けて自社の保険料を見直します。
こういったポイントを踏まえて、詳しい流れを見ていきましょう。
保険料値上げの流れ

保険の価格改定には、『損害保険料率算出機構』『金融庁』『各損害保険会社』という3パターンの登場人物(団体)がいます。
- 損害保険料率算出機構が、新しく算出した参考純率を金融庁に届け出る。
- 金融庁がそれをチェック(届け出だけですが、実際には審査や確認も行われる)。
- 損害保険料率算出機構が新しい参考純率を発表。
- 各損害保険会社が保険料や補償内容を見直す。
- 各社の判断で保険料・保険内容の改定を発表。
損害保険料率算出機構は全国の保険会社から実際の事故データを集めて現状に即した参考純率を出します。
ただし、すべての保険会社がそのまま値上げするわけではありません。
次は、どのような値上げが行われるのか、どんな人が影響を受けやすいのかを解説します。
値上げの内情と影響を受けやすい人
参考純率の上げ幅にそのまま保険料が反映されるわけではありません。
保険会社の運営費や利益にあたる付加保険料は各社の判断で変えられますし、値上げ幅が大きいと契約者が離れてしまうこともあるため、補償内容を調整してできるだけ値上げせずに対応する場合もあります。
たとえば2022年・2024年の保険料改定では、災害リスクの増加や建築資材の高騰に対応するため、長期契約の上限を10年から5年に短縮しました。
契約期間が短くなると、備えるべきリスクも減るため、保険料の設定に柔軟性が生まれます。

さらに、水災リスクを全国で5つのレベルに分類し、リスクが高い地域は値上げ、低い地域は据え置きまたはわずかに引き下げ、という設定で公平感を保っています。
建物の築年数に応じた料率も、新築は安く、築古は高くなるように調整されています。
どんな人が特に影響を受けるか
値上げ理由から考えると、特に影響を受けやすいのは次のような方です。
- 過去に大きな水害などの自然災害があった地域に住んでいる方
- 築年数が一定以上の建物に住んでいる方
自然災害の多い地域では、被害の可能性が高いため保険料も高く設定されやすいです。
また、築年数が古い建物は、建材や構造上のリスクが新築より高くなるため、保険料が上がりやすい傾向にあります。


値上げのタイミング
値上げのタイミングに明確な基準はありませんが、過去は数年に一度だったのが、最近は2~3年に一度になってきました。
これは自然災害の増加や建築資材の高騰が続いているためです。
今後も自然災害の頻度や物価高の傾向が続けば、再び値上げや改定が行われる可能性は高いでしょう。
そのため、定期的に保険内容を見直しておくことが大切です。
まとめ
火災保険の値上げは、自然災害の増加や建築資材の高騰といった現状を反映したものです。
損害保険料率算出機構が参考純率を算出し、金融庁が確認したうえで保険会社が自社商品を調整するという流れで値上げが行われます。
値上げ幅は保険会社の判断や契約条件によって異なり、過去の災害リスクが高い地域や築年数の古い建物ほど影響を受けやすい傾向があります。
今後も自然災害や物価の変動によって保険料が変わる可能性があるため、定期的に保険内容を見直すことが大切です。









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