10:0事故でも使える?自動車保険の人身傷害をわかりやすく解説

自動車保険

前回の記事では、対人賠償や対物賠償といった「相手に対する補償」について解説しました。
一方で、自動車保険には、自分自身や同乗者のケガに備える補償もあります。

その代表が「人身傷害」です。

名前は聞いたことがあっても、搭乗者傷害との違いや、どんな場面で役立つのかまで理解している方は意外と多くありません。
今回は、人身傷害とはどんな補償なのか、なぜ重要なのか、そして10:0のもらい事故でも知っておきたいポイントまで、わかりやすく解説します。

忙しい人向け忙しい人はこちら

掲載内容は『保険得々チャンネル』で紹介した保険の情報を基に記事として再構成したものです。

人身傷害とは 自分や同乗者のための補償

前回の記事で解説した対人賠償や対物賠償は、相手に損害を与えてしまったときのための補償です。
それに対して人身傷害は、自分自身や、自分が運転している車に乗っている人のケガに備えるための補償です。

事故によって治療費がかかったり、仕事を休まざるを得なくなったり、後遺障害が残ってしまったりした場合に、実際の損害額に応じて保険金が支払われます。
ここで注意したいのは、人身傷害の保険金額として設定する3,000万円や5,000万円といった数字は、そのまま定額でもらえる金額ではないということです。

あくまで「実際に発生した損害に対して、いくらまで支払われるか」という上限額であり、実損払いの補償であることを押さえておきましょう。

AI時代の自動車保険、無制限にすべき補償とは?落とし穴や事例を交えてプロが解説!
自動車保険の申込みでは、車や運転者情報の入力ミスに注目されがちですが、実はそのあとに選ぶ補償内容もとても重要です。 特にAI化された申込み画面では、手続きをスムーズに進めるために必要最低限の説明にとどまることが多く、「この補償はこうしておい...

人身傷害と搭乗者傷害の違い

人身傷害と搭乗者傷害は、どちらも自分や同乗者のケガに備える補償です。
ただし、似たような名前でも中身は同じではありません。

特に知っておきたい違いは、「実損払いか定額払いか」と、「どの状態なら補償対象になるか」という2点です。

【違い1】実損払いか定額払いか

人身傷害は、実際に発生した損害額を基準に保険金が支払われる実損払いの補償です。
対象になるのは治療費だけではありません。
休業による収入の減少や、精神的な損害、後遺障害によって将来得られたはずの収入が失われた場合の損害なども、補償の対象になりえます。

一方の搭乗者傷害は、あらかじめ定められた条件に当てはまった場合に、決められた金額が支払われる定額払いの補償です。
そのため、ケガをしたときに一定額を受け取れるわかりやすさはあるものの、実際に発生した損害の大きさとは必ずしも一致しません。
現在の自動車保険では、人身傷害を中心に考えるのが主流です。

搭乗者傷害は補助的な補償として扱われることが多く、搭乗者傷害だけでは実際の損害を十分にカバーできないことがあります。

【違い2】補償の範囲が異なる

人身傷害と搭乗者傷害は、補償のされ方だけでなく、「どの状態なら補償対象になるか」という点でも差があります。
名前が似ているため同じように感じやすいですが、実際には補償の届く範囲が異なる場合があります。

項目 人身傷害 搭乗者傷害
補償の
考え方
実際の損害額を補償する
実損払い
あらかじめ決められた金額を支払う定額払い
主な対象 契約車両に乗車中の
本人・同乗者のケガ
搭乗中の本人・同乗者のケガ
注意点 補償範囲が比較的広く、
治療費や休業損害なども
対象になりうる
「搭乗中」の解釈によっては対象外になる場合がある

人身傷害は、車に乗っている人の実際の損害を補償する考え方なので、補償内容が比較的厚いのが特徴です。
一方で搭乗者傷害は、定額払いであるうえ、「搭乗中」といえるかどうかが問題になる場面があります。

そのため、状況によっては人身傷害なら補償対象になった可能性があるのに、搭乗者傷害だけだったために十分な補償を受けられなかった、ということも起こりえます。

実際にあった事例

実際にお客様が体験した事例では、トラックの荷台で作業中にクレーン事故に遭われた方がいらっしゃいました。

ところが、その方が入っていたのは搭乗者傷害だけでした。
その結果、補償を受けられなかったのです。

名前だけを見ると似ている補償ですが、補償の考え方や対象範囲の違いが、いざというときには大きな差になります。
「どちらか入っていれば同じ」と考えず、人身傷害と搭乗者傷害は別物として理解しておくことが大切です。

人身傷害はいくら付けるべきか

人身傷害で設定する3,000万円や5,000万円といった金額は、定額でもらえる金額ではなく、損害額に対する支払いの上限です。
それでも、上限額が低すぎると、重大事故では足りなくなるおそれがあります。

3,000万円では足りないケースが多い理由

人身傷害で補償されるのは、治療費だけではありません。
仕事を休んだことによる収入減、後遺障害による将来の収入への影響、精神的損害なども含めて考える必要があります。

そのため、同じ事故でも損害額は一律ではありません。
たとえば、若い方で将来の収入が見込まれる場合や、家族を支えている方の場合は、損害額が大きくなりやすいです。
「命の値段」や「ケガによる損失」は、年齢や家族構成、収入状況などによって変わるため、最低額だけ付けて安心するのは危険です。

本来は無制限、少なくとも5,000万円は検討したい

人身傷害の金額設定は、できれば無制限が理想です。
少なくとも、5,000万円程度は検討したい補償だといえるでしょう。

特に、働き盛りの世代や扶養家族がいる方は、設定額が低すぎると重大事故の際に不足する可能性があります。
もちろん、必要な金額は家族構成や働き方によって変わります。

ですが、最低額の3,000万円だけを機械的に選んでしまうのではなく、自分の生活状況を踏まえて考えることが大切です。

過失割合がある事故では 人身傷害のありがたさがよくわかる

事故では、ぶつけた側が必ず100%負担するとは限りません。
相手にも落ち度があれば、その割合に応じて賠償額が調整されます。

そのため、相手からの賠償だけを前提にしていると、思ったように補償が進まないことがあります。

過失割合とは何か

過失割合とは、事故の責任を双方で割合に分ける考え方です。

たとえば、相手の治療費が100万円かかったとしても、過失割合が「自分7:相手3」であれば、こちらが負担するのは7割の70万円という考え方になります。
事故の状況によっては、ぶつけた側が全面的に悪いとは限りません。

たとえば、相手が赤信号で横断歩道を渡っていたり、横断歩道ではない場所から急に飛び出してきたりした場合などは、相手にも過失が発生することがあります。
つまり、「ぶつけてしまった側が必ず100%補償しなければならない」とは限らないのです。

過失割合は、警察の実況見分や事故資料、ドライブレコーダー映像などをもとに、当事者や双方の保険会社が過去の裁判例・実務基準を参考にしながら協議して決めていくのが一般的です。

相手との交渉だけに頼らず備えられるのが人身傷害

事故後の補償は、相手との示談や過失割合の調整が終わってから進むと思われがちです。
ですが、人身傷害は自分側の補償として役立つため、相手との交渉結果だけに頼らず備えられるのが大きな強みです。

保険会社によっては、相手がいる事故でも示談の成立を待たずに人身傷害の保険金を受け取れる商品があります。
ケガの治療や生活の立て直しは、事故の相手方との話し合いが終わるまで待ってはくれません。
だからこそ、人身傷害は「自分側から先に支えてくれる補償」として重要です。

10:0のもらい事故でも 人身傷害は使ったほうがいい

相手が100%悪い事故では、「相手の保険会社が全部払ってくれるのだから、自分の保険を使う必要はない」と考えてしまいがちです。
ですが、人身傷害については、その考え方で損をしてしまうことがあります。

相手が100%悪くても 自分の保険を使えることがある

自分に過失がない10:0の事故でも、自分の保険の人身傷害から補償を受けられる場合があります。
被害者だからといって、自分の保険がまったく関係なくなるわけではありません。

むしろ、こうした場面こそ、自分の保険で受け取れる補償がないかを確認することが大切です。
人身傷害には、通院や入院に関する一時費用のように、対象条件を満たせば受け取れる補償が付いていることもあります。

人身傷害だけなら等級が下がらないケースがある

人身傷害のみを使った場合は、翌年の割引等級が下がらないノーカウント事故扱いになるのが一般的です。
つまり、補償を受けられるのに請求しないのは、かなりもったいないということです。

「自分の保険を使うと損をするのでは」と思ってしまい、請求をためらう方もいますが、人身傷害だけであればその心配は比較的小さいといえます。
だからこそ、10:0事故では「相手が払うから終わり」と考えず、自分の契約内容も確認しておきましょう。

請求しないと損なのに、案内不足が問題になったこともある

過去には、自動車保険の付随的な保険金の支払漏れが大きな問題になったこともあります。

つまり、本来受け取れるはずの補償が、十分に案内されないまま見落とされていたケースがあったということです。
保険は、入っているだけでは十分ではありません。
どんなときに、どの補償を請求できるのかを知っておかなければ、使える権利を見逃してしまうことがあります。

10:0のもらい事故でも、自分の人身傷害を確認する価値があるのはそのためです。

仕事中の事故では 労災や企業の保険も関わることがある

仕事で車を使っているときの事故では、自動車保険だけでなく、労災保険企業が加入している民間保険が関わることもあります。
ただし、それぞれ役割が異なるため、「どれか一つあれば十分」とは限りません。

労災保険は 業務中や通勤中の事故に備える公的制度

労災保険は、業務上の事由または通勤による負傷、疾病、障害、死亡に対して必要な保険給付を行う公的な制度です。
そのため、仕事中の交通事故や通勤中の事故では、労災保険が関わる可能性があります。

ただし、労災保険と自動車保険の人身傷害は同じものではありません。
役割も支払いの考え方も異なるため、仕事中の事故では「労災があるからそれで十分」と決めつけず、自分の自動車保険も含めて確認することが大切です。

企業の民間保険では 事業用賠償保険が関わることもある

企業によっては、従業員が業務中や通勤中に事故に遭った場合に備えて、使用者賠償責任保険などの民間保険に加入していることがあります。

これは、会社が法律上の損害賠償責任を負った場合に備える保険であり、今回の記事で解説している「自分の自動車保険の人身傷害」とは役割が異なります。
そのため、仕事で車を使う方は、「会社の保険があるから大丈夫」「労災があるから自分の保険はいらない」と考えるのではなく、それぞれの補償の役割を分けて考えることが大切です。
企業側の備えについては、事業用賠償責任保険の記事でも詳しく解説していますので、あわせて確認してみてください。

事業用賠償責任保険とは?種類や加入後に気を付けないといけない注意点を解説
皆さんは企業が入る保険というものをご存じですか? 事業用保険ということもありますが、これは火災保険のようにオフィス(の建物)に保険をかけるというものではなく、事業を行ううえで発生しうる賠償リスクをカバーするための保険です。 この記事ではそん...

 

この記事の内容は、家禄堂『保険得々チャンネル』で動画解説しています!

メディアでは語れないもっと踏み込んだ内容についても触れているので、ぜひご覧ください。


ここからは、動画に寄せられた皆さんのご質問、ご感想をご紹介します。

皆さんの反応

コメント部分スクリーンショット
https://www.youtube.com/watch?v=uOgB5I2ysr8

この動画には以下のような声が寄せられています。内容を分かりやすくするために一部要約しています。

Question Icon

10:0の事故で被害に遭い、自分の人身傷害保険を使った場合、保険会社は加害者側に求償するのでしょうか。もしそうなると、加害者から被害者への直接の賠償と重複してしまうようにも思えるのですが、このあたりは実際どうなっているのでしょうか。

Answer Icon

このケースでは、保険会社が加害者側へ求償することはありません。加害者側がすでに賠償義務を果たしているためです。保険会社に求償権が生じるのは、加害者側が支払うべき賠償の一部または全部を保険会社が立て替えた場合に限られます。そのため、ご質問のケースで支払われる人身傷害保険金は、賠償の上乗せというより、お見舞金に近い性格を持ち、重複弁済には当たらないと考えられます。

まとめ

人身傷害は、相手への賠償ではなく、自分自身や同乗者のケガに備えるための重要な補償です。
搭乗者傷害と似て見えても、実損払いか定額払いか、どこまで補償対象になるかといった点で違いがあります。

また、設定する3,000万円や5,000万円といった金額は定額でもらえる額ではなく、あくまで実際の損害に対する支払い上限額です。
だからこそ、重大事故に備えるなら、設定額は慎重に考えたいところです。

さらに、人身傷害は過失割合がある事故だけでなく、10:0のもらい事故でも役立つことがあります。
しかも、人身傷害だけの使用であれば等級に影響しないケースが多いため、使える補償を使わずに終わってしまうのは避けたいところです。

仕事中の事故では、労災保険や企業の民間保険が関わることもありますが、それぞれ役割は異なります。
相手が払ってくれるから大丈夫、会社の制度があるから大丈夫、と思い込まず、自分や家族を守るための補償として人身傷害をしっかり確認しておきましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました